パン屋さんとの出会い

 ビリーブ・メンバーの梶原です。

 

 私が25歳の時、将来を悲観するあまり、消えてしまうことに決めました。それがうつ病のはじまりだったのでしょう。

 

 最期は京都・美山町にある芦生原生林で終わることにしようと思いついたのですが、今となってはなぜそこにしようとしたのか覚えていません。

 

 京都駅からバスで美山町へ向かったのですが、場所を地図で念入りに調べたはずなのに、到着し下車してみると行く先がまったくつかめない。

 

 道を聞こうにも周辺には誰もおらず、仕方がないので当てどもなく歩くことにしたのですが、しばらくすると私の横に車が止まりました。

 

「どちらに行かれるんですか?」

 

「芦生原生林に行こうと思っているんですが」

 

「よかったら乗って行きませんか?」

 

と言ってもらったので、同乗させてもらうことにしました。

 

 

 車内には家族3人がいたのですが、話を聞くと、ご主人はベッカライ・ヨナタンというパン屋を経営されているそうで、奥さんはスイス人でした。大阪万博のスイス館でコンパニオンをされている時に出会われたそうです。

 

「せっかくですから美山町を案内しますよ」

私はそれを拒む気にもなれず従うことにしました。

 美山町は茅葺の民家が数多くあり、それらを見終わったあと喫茶店でコーヒーをご馳走になったのですが、いろいろと話し込むうちに日が暮れかかってきました。

 

「今日はもう遅いから、私の家に泊まりませんか?、明日原生林に連れて行ってあげますよ」

 

と言われたのですが、その時にはもうそんな気など失せてしまい、早く岡山へ帰って入院しなければいけない、という思いに変わっていました。

 

 バス停まで見送っていただいたのですが、話には出さなかったものの、ご主人は私の意図に気づいていたのかもしれません。

 

 その後、長い闘病生活を送ることになるわけですが、このパン屋さんとの出会いがなければ当然今の私はいません。ただただ感謝するばかりです。

 

 出会いって不思議ですね。

 

 ただすれ違うだけのものもあれば、生涯続くものもある。他愛のないもの、生き方を激変させるもの、嬉しいもの、辛いもの・・・まさに多種多様。

 

 でも私は、あらゆる出会いは必然として起こっているもので、すべてがつながりを持って「自分」というストーリーを織りなしてくれる大事な登場人物なんじゃないかと思っているんです。

 

 そんな見方をするようになって、この何が起こるかわからない、ケッタイなドラマの一瞬一瞬が、面白くてたまらないものに変わってしまっています。

 さて、今度はどんな出会いがこのストーリーを展開させてくれるんでしょうかね?